13・佐藤 慶さん宅を訪問

4月23日、1時に待ち合わせということで、早めに東京に行きました。というのも、佐藤さんのご自宅は杉並区の久我山にあります。久我山は私が明治大学に在学中に1年間下宿していた場所であり、離れてから17年間一度も来たことがありません。久我山を散策してかつて下宿があったところあたりを見てみようと思い立ちました。久我山に着いたのは11時くらいでしたが、以外にも17年前と比べてほとんど変わりなく、かつて下宿していた建物も全く同じであり、まわりの風景もほとんど同じです。今も昔と全く同じように下宿屋をしているのには思わず感動してしまいました。そうしているうちに、雨が降り始め、待ち合わせ場所である駅前の喫茶店の2階に入ったときには、全くの濡れネズミになってしまいました。時間の10分前に来たこともあり、時間が迫ってくるにしたがって次第次第に緊張の度が増します。そうしているうちに、それらしい人が階段を登ってくるのが見えました。かなり厳格なイメージがあったのですが、かなりラフな服装で来られたこともあり、緊張感がほぐれました。30分ほど、ガリ版についてや、以前久我山に住んだことがあることなどお話した後に、「自宅にいらっしゃい」ということで外に出ました。外は相変わらずの大雨です。傘をもってこなかった為に佐藤さんと相合い傘の状態で自宅まで案内していただきました。私も最初は緊張のしどうしでしたが、佐藤さんがあまりに気さくで優しい方なので、ご自宅に着いたころはすっかりうちとけていました。佐藤邸は商店街を抜けた後にある高級住宅街の一角にあり、白くて小綺麗な家でした。家に着くとすぐに、応接室に案内されました。応接間にはすでにガリ版の機材類が所狭しと置いてあります。そして、その中から2冊のファイルを見せていただきました。このファイルはB4とB5のファイルで、印刷物が年代順にきちんと分けて入っており、もの凄く丁寧に整理されています。かつてさまざまなガリ版印刷をやっていた方にお会いし、いろいろな資料をもらったり見たりしましたが、佐藤 慶さんほど几帳面に丁寧に保存していた方はありません。それくらい自分の下積み時代のガリ版資材・作品に対し愛情があるのでしょう。その深さを感じずにはおれませんでした。佐藤さんの、ファイルを見ながらの若い頃の苦労話やガリ版に対する思いなど、いずれをとっても感動的でした。忙しい方だということは、前々から聞いていましたので、最初は1時間くらいの訪問で失礼する予定でしたが、話があまりにも盛り上がり5時間あまり滞在してしまったのでした。「夕食でも」とお誘いをいただきましたが、帰りの「つばさ」の時間もあり辞退して佐藤邸を出たのは6時を回っていました。今考えてみると随分と図々しいことをしたものです。これは、帰ってから反省したことでしたが、ガリ版の機材の前で写真のポーズをお願いしたり、色紙に何枚もサインをお願いしたり、奥様が丁度おられたので2人で写真を撮ってもらったり、途中に見たビデオのダビングをお願いしたり、数えあげればきりがありません。そしてなおかつ「持って帰るのは大変だろうから、連休明けに休みが1日だけあるので、宅配便で送ってあげましょう。」と言っていただいたのには、感謝を通り越して感激的でした。2冊のファイルと、重くならないものだけ持って佐藤邸を後にしました。いただいたものの中で一番感動的だったのがB5版のノートです。これは新聞の題字を貼って活字の書体辞典を作ったもので、相当に使いこんだのでしょう背中も丸くなっています。これ1冊作るのに何年もかかったそうです。これは「なんでも鑑定団」を始め数々のテレビ・新聞に取り上げられました。ただ、名前が書いてなかったので、その場で「佐藤 慶」と表紙にサインしてもらいました。また、佐藤さんは、俳優としてだけでなくナレーターとしても日本一の評価を得ている方なのでタバコは吸わないのではと思い、最初は遠慮していたのですが、以外にもヘビースモーカーで、話をしている間にも次から次へとタバコを吸って作品の説明をしてくれました。一日5箱吸うそうです。また、最後は息子さんが一人いて芸能関係とは全く無縁で別のところに住んでいることなど、プライベートなことも奥様を交えてお話したりしました。
佐藤邸を出る時にはまだ雨が降っていて、ビニール傘をもらい、なおかつ駅までわざわざ送っていただきました。全然会ったこともない見ず知らずの私に対してここまで親切にしてくれる佐藤さんの人柄に感動のしっぱなしのまま、久我山駅を後にしたのでした。こういった出会いがガリ版の一番の魅力なのです。

山形に帰ってからしばらくして、宅配でいくつもの段ボールが送られてきました。この梱包が実に丁寧で機材類は絶対に痛まないようにきちんと包んであり、その愛着の深さに改めて感動しました。今も詰め物として入っていた紙やスチロールは大事に保管しております。今までに、いろいろな方から、いろいろと機材を送っていただきました。そのほとんどが、梱包が丁寧で感銘を受けた事が多かったのですが、佐藤さんの梱包はそのどれよりもしっかりしており、忙しい中での作業さぞかし大変であったろうと思わずにはおれません。何しろ1ヶ月のうちに1日か2日しか休みがないのですから。